二度のオリンピックに出場し、女子マラソンで銀・銅のメダルを獲得した有森さん。昨年まで現役生活を続けながら、NPO法人を設立するなどしさまざまな活動を行っている有森さんにお話をうかがいました。

人を感動させたいという思いから、教師ではなく、マラソン選手への道を選んだ
―まずは、幼少時代のお話から聞かせてください。有森さんはどのようなお子さんでしたか?
「絵を書いたり、ものを作ることに興味がありました。いわゆるおてんばで、活動的な子どもでしたが、実はスポーツは得意ではなかったんですよ」
―意外ですね。根っからのスポーツマンだと思っていました
「スポーツに興味を持つようになったのは、目標に向かってコツコツと努力して、結果を出すことに魅力を感じたから。中学生の時に体育祭で出場した800m走がきっかけでした」
―陸上の中でもマラソンを目指すようになったきっかけは?
「大学生の時にソウル五輪を見ていて、女子マラソンで優勝したロザ・モタさんがゴールした姿にすごく感動したんです。42.195kmの過酷なレースを走りきった後の、彼女から溢れ出る爽快感というか、醸し出すその雰囲気が強烈に心に焼きついたんです。私も、あの場所に立って人を感動させたいと思ったのがきっかけですね」
―大学生になってから、オリンピックを目指されたのですね
「いいえ。実は、小学生のころからずっと体育の先生になることが夢だったんです(笑)。大学時代は教育実習にも行きましたし。父親が学校の先生ということもあったのですが、自分が自信を持っているものを最大限に活かすことができる方法は何かと考えたときに、思い浮かんだのが教師でした。教師になれば、自分の特技をより多くの人に伝えることができるのかなと思ったんです」
―教師ではなく、マラソン選手の道を選択したのはなぜですか?
「教員試験の直前に、レースの記録がぐんぐん伸びだして、もっと挑戦したいという気持ちが芽生えたから。走ることをまだ極めきれていないと思い、実業団を探してリクルートに入社しました」
―その後、二度のオリンピックでメダルを獲得されますが、輝かしい成績を残せたのはなぜだと思いますか?
「とにかく練習。 本当に毎日たくさん練習しました。衣食住など、生活のすべてを走ることに捧げていましたね。例えば、ふだんの靴を選ぶにしても、『足を冷やさないか』とか『膝に負担がかからないか』など、すべての選択基準が『マラソンにとってプラスになるか』でした。当時は、マラソンの支障になることはすべて排除し、走ること以外のすべてを犠牲にしましたね」
―そんなにご自身を追い込んで、辛くなかったですか?
「辛いとか、我慢しているという感覚はまったくなかったです。私は一度目標を決めたら、とことん努力することが苦にならないみたいです(笑)。 『一所懸命は必ず勝つ』、これは私のポリシーなのですが、目標に向かって必死に努力することこそが、とても大切だと思うんです」
スポーツを通じて、世界の子どもたちに夢を持つことのすばらしさを伝えたい
―NPO法人を設立するなど、さまざまなボランティア活動をされているのですね
「主にNPO法人『ハート・オブ・ゴールド』では、ハンディキャップを持つ子どもたちが、スポーツを通じて生きていくための自立ができるように支援しています。例えば、毎年カンボジアで開催しているマラソン大会では参加費を寄付し、地雷で被害を受けた子どもたちに義足をプレゼントしています。義足をつけて走ることで、夢を持つきっかけになればと思います」
―国連人口基金親善大使も務めていらっしゃいますが
「人口問題とスポーツは、一見何のつながりも無いように見えますが、スポーツを通して問題解決へ向かうきっかけを作れたりもできるんです。勝負のために続けてきたマラソンを通して、人々に夢や希望を抱くことのすばらしさを伝えていきたいですね。あと、スポーツに挑戦することによって、技術力だけでなく、総合的な人間力もはぐくまれると思う。スポーツを通じて、子どもたちの豊かな人間性も育ててあげたいです」
―今の子どもたちと接していて何か感じますか?
「今の子どもが変わったというよりは、子どもたちを取り囲む環境が大きく変化したと思う。子どもたちはある意味、根本的には変わっていない気がします。確かに精神的に弱かったり、自己表現が苦手な子どもは増えたかもしれない。体力の低下も著しいです。それでも、根気よく大人たちが教えてあげればできるようになる」
―つまり、大人の果たす役割が重要ということですね
「そうですね。私は、子どもたちを指導する体験プログラムを多数開催しています。自然のなかなど、家庭や学校以外のフィールドで、子どもたちがさまざまな体験に挑戦し、成長できる機会を積極的に作っていかないといけないと思う。それは大人の使命だと感じています」
―本日はありがとうございました

今回のインタビューの聞き手となったのは、スクールツアーシップの指導責任者の利倉さん。「二度とやってこない一瞬一瞬を精一杯生きること」がモットーという有森さん。目標に向かってひたむきに前へ進む彼女の力強い笑顔が印象的でした。