日本科学未来館の館長として、先端科学の普及に尽力されている毛利衛さん。宇宙飛行士である毛利さんに、宇宙での貴重な体験談や子どもたちの教育についてのお話をお聞きしました。

あこがれの宇宙飛行士になって学んだ宇宙でのアクシデントに対応することの重要性
―科学や宇宙に興味を持つようになったきっかけから教えてください
「母親や兄弟が自然や科学に興味があり、家庭で日常的に科学の分野にふれあう機会がたくさんあったと思います。また、小学校の先生が理科の楽しさを教えてくれたのも大きかったですね。とても情熱にあふれていた若い先生で、教室のなかだけでなく、屋外でいろいろなことを教えてくれました。また登山を一緒にしたり、先生の家で写真を現像したり、ラジオを作ったりしましたね」
―身近な人々の影響を受けて科学の分野に進み、 あこがれの宇宙に行かれて、一番何を学ばれましたか?
「それは、私たち人間が想定できることはごくわずかしかなく、未来のことはわからないということ。そして、その思い描いていた未来と現実が違っても、それに対応することがとても大切ということですね。そして、自分の「わかること、わからないこと」をはっきり自覚し、科学的なものの考え方を進めて、はじめて現実の困難を乗り越えられることを実感しました」
―空間的にも物理的にも制約があるせまいスペースシャトルのなかで、どう知恵をしぼるかが重要なのですね
「ええ、そうです。スペースシャトル内で問題が発生しても的確に対処できるように、宇宙飛行士はたくさんの訓練を積み重ねます。訓練とはあくまで想定できる範囲のなかでのトレーニングのこと。しかし、宇宙では想定外の出来事の連続です。想定外のことへの対応は訓練では鍛えられないので、とっさに新しいことに対処する能力が常に求められましたね。想定外の出来事にどのように対応するかは、その人の人生のすべてが問われることなのだと感じました」
―宇宙での任務中に、何か印象に残っている出来事やエピソードなどはありましたか?
「小渕元総理との宇宙インタビューで、むいたりんごの皮が宇宙空間ではどのような形になるのか、という実験を行ったときのことですが、地上との交信が途切れてしまい、一番大事なシーンであるむいたりんごの皮の映像を見せられなかったのです。地上から『もう一度その映像を見てみたい』と言われたのですが、その時にはもうりんごを食べてしまった後で(笑)。どうしようかと、クルーにも相談して、みんなで知恵を絞って、『じゃあ、メキシコの薄焼きパンであるトルティーヤを代用したらどうか』と。結局、トルティーヤにハサミを入れ、まるでりんごの皮をむいているかのように見せて、なんとか実況中継を切り抜けることができました。実はその後、アメリカのCNNがそのアクシデントを取り上げ、『新しいパスタの食べ方』などというヘッドラインで紹介して、話題にもなったのですよ(笑)」
―逆に何かつらかった経験などはありましたか?
「どんな厳しい訓練も苦になりませんでした。すべての訓練や勉強が子どもの頃からあこがれていた、宇宙へつながっていると思え、むしろうれしかったくらいです。ただ、ひとつあげるとするならば、膨大な資料や本を読んで、それらをすべて暗記しなければならないことですね。訓練の無いお休みの日もすべて勉強に費やしていました。非常にこまかい装置のマニュアルを完璧に理解しなければ、何か問題が起きたときに対処できず、クルー全員の命を危険にさらしてしまうことになりますからね」
子どもたちには、自分の個性を活かして社会に役立てる大人に成長してほしい
―館長をされている日本科学未来館はどのようなところでしょうか?
「さまざまな角度から、先端の科学技術を紹介し未来の社会を描くところです。科学が私たちの生活に与える意味を問いかける機会をつくっていて、子どもたちにも本質的な科学の楽しさを体験できるようになっています」
―訪れる子どもたちとふれあっていて、何か感じることはありますか?
「子どもは新しいものに興味をいだき、本当に好奇心旺盛ですね。いつも『なぜだろう?』『どうしてだろう?』と考えていて、それは非常に理科的な発想だと言えます。理科嫌いの子どもが最近多いということを耳にしますが、そうとは思いません。むしろ大人たちの価値観や考え方が変化している。子どもに影響を与えているのは大人たちだと思いますね」
―では、親が子どもたちにしてあげるべきことはなんでしょうか?
「親の役目は子どもにいろいろなチャンスを与えてあげることだと思います。そして子ども自身がそのなかから、自分に合ったものを見つけて、自主的に学んでいくべきではないでしょうか。私は、学ぶとは、『今ある命を次の生命につなぐ担い手になること』だと考えます。かみくだいて言えば、義務教育である小・中学校では、自分ひとりでも社会で生きていける知恵を身につけること。つまり必要最低限の日本人としての常識を学びます。そして、高校や大学では、自分の得意な専門分野を追求し、個性を磨き、自分が社会の構成員として、さらに豊かな発展へと導ける力を探すことです。これを、科学的な視点で言うと、地球上には誰一人同じ遺伝子を持つ人間はいないということから、人類が生き延びるために自分特有の能力を生かすことです。一人ひとりの固有の遺伝子がどの分野に強いのか、どのように伸びるのかは誰にも分かりません。それは自分のいる社会と自然の環境、および個人の努力次第です。世界に一つしかないその人の個性を活かして、社会のために役立てる何かがあるはずだと私は思っています。勉強でもスポーツでも、小説を書いたり、技術や芸術活動をしたり、どんな分野にもすばらしい価値があります。いろんな選択肢のなかから、社会に出て自分が力を発揮できるものを子どもたちには見つけてもらいたいですね」
―本日はありがとうございました

今回のインタビューの聞き手となったのは、スクールツアーシップの指導責任者の利倉さん。科学者ならではの視点から、あるべき教育の姿とは何かを語ってくださいました。